お母さんの話によると。
「帰ってきたときには、智も海人もいなくて……」
「お父さんが今、探しに出かけてるの」
「今から、お父さんに連絡して、そっちに向かわせるから」
それから、あゆみさんに電話を代わって、事情を伝えてもらって、あとここの住所も。
しばらくしてお父さんが車で迎えに来た。
車の中で、話をした。
「智。海人がどこに行ったか、思い当たるところは、ないかい?」
「……ない」
「そうか。……それじゃあ、父さんと母さんは、海人を探しにいくから、智は家で待っていてくれないかな?」
「……分かった」
家に着いて、お母さんと留守番をバトンタッチ。
私は一人で留守番。一人の留守番は慣れてるけど、でも。
寂しかった。帰ってこなきゃよかったって、思った。
結局、お父さんも、お母さんも、海人のほうが大事なんだ。
喜んだ自分がばかみたい。
海人が、帰ってこなきゃいいのに。
お腹が空いてたから、パンを食べて。じっと寂しさに耐えた。
突然ガチャリと、玄関のドアが開く音がして、お母さんかお父さんが帰ってきたのかな、と思ったら、
「ただいま〜」
それは海人の声だった。そして、
「にゃう、にゃお、にゃ〜!」
猫の声。
家に入ってきた海人は、猫を抱いていた。昼にパンを横取りした猫に、よく似ている。というか、たぶん、あの猫だと思う。しっぽと手足(?)をバタバタと暴れさせて、逃げようとしてるみたい。
そして猫も海人も雪まみれ。
よく見ると、海人は体じゅうひっかき傷だらけだった。
とりあえず私は、お父さんの携帯に電話して、海人が帰ってきたことを伝えた。お父さんとお母さんは、すぐに帰ってきた。
「海人! どうしたんだ、その傷……ん、猫?」
海人はにこにこ笑っている。私は海人をにらみながら、言った。
「……海人がひろって来ちゃったみたいなの」
「あら、まあ。もしかして、それで帰りが遅くなったのかしら? 心配したのよ、海人」
ずきん、と心が痛んだ。
「とにかく、傷の手当てをしないと。海人、こっちに来て」
お母さんは海人の手当てを始めた。
私がぼうっとその光景を見ていたら、お父さんが私の方を向いて、言った。
「で、だ。智のほうは、一体、何があったんだ?」
私はうつむいて、黙った。なんて答えていいのか、分からなくて。
「海人のことが、嫌いだから、家出なんかしたのかい?」
半分当たっていて、でも、違う。
「私、は……」
辛くて、泣きそうになった。必死に、涙をこらえた。
「だって、私、海人みたいにおりこうさんじゃないし、お父さんもお母さんも、私より、海人のほうが大事なんでしょ? 私、要らないんでしょ?」
「智……」
お父さんは、悲しそうな顔をした。
「お父さんもお母さんも、智のために、良かれと思って、海人を連れてきた。智が寂しくないように。けれど……」
お母さんも、海人の手当てを中断して、こっちに来て。
「よけいに寂しい思いをさせちゃったのかもしれないわね。ごめんなさい、智。私たちは、智のこと、何よりも大切に思っているのよ」
顔を上げると、お母さんとお父さんの、優しい笑顔。
まだこれだけで、私が大切にされてるって、信じられるわけじゃないけど。
でも、少なくとも、私は要らない子ではないみたいだって、そう感じたから。
私は。
「ありがとう、お父さん、お母さん」
しばらくはまだ、この家にいることにした。