「ねえ、大丈夫!? 起きてよ、ねえ!」
女の人の声が聞こえて、私は目が覚めた。
髪の長い女の人の顔と、星空が見える。
「……?」
「あ、起きた! よかったぁ〜」
その女の人は、ほっとした顔をして、私の顔をのぞき込んでる。
私はゆっくりと起き上がって、少しして、自分がどこにいるのか、思い出した。
……そっか、もう、夜になったんだ。
「ねえ、あなた、名前は?」
「智、です……って、そういうあなたは、誰?」
「私、あゆみ。ねえ、智ちゃん、ちょっとウチ来なよ。すぐ近くだから。体、あっためないといけないわ」
この人、私がこんなところで寝てるのを見つけて、心配して起こしてくれたみたい。
「ほら、立って、智ちゃん。行くよ!」
「あ、はい」
立ち上がって、その人(あゆみさん)の後について歩いた。
悪い人ではなさそうだし、何より体がすごく冷えて寒かったから、早くあったまりたかったから、黙ってついていった。
あゆみさんの部屋はあったかくて、私は出されたホットミルクを飲みながら、だんだんまた、眠くなってきた。
けど、
「ねえ、智ちゃん、おうちはどこ? 近くなら、送るよ?」
と言われて、はっと、目が覚めた。
そっか、このままここにいたら、家に、帰らなきゃいけなくなるんだよね。
「……」
私は何も答えないで、ただ、どうしようどうしようって、考えてた。
「あ、やっぱり」
あゆみさんはうつむいた私の顔をのぞきこんで、言った。
「家出、でしょ?」
ばれちゃった。
「何があったかは知らない。けど、きっと智ちゃんの家族みんな、心配してるよ?」
そう言われて、あ、この人はきっと、大切にされてる人なんだ、って、そう思って。
「私、心配なんてされてないから……」
って、答えたの。
そうしたら。笑顔だったあゆみさんが、急にまじめな顔をした。
「智ちゃん。私、あなたのことも、あなたの家族のことも、全然知らないけど、ね」
今度はあゆみさんがうつむく番だった。
「家族って、いくら普段仲が悪くっても、いざってときは心配になるものなのよ」
あゆみさんは、何だか悲しそうだった。
私も、あゆみさんも、黙ったまま、しばらくして。
先に口を開いたのは、あゆみさんだった。
「私もね、親と仲悪くて、だからこんなとこで一人暮らししてるんだけど。でもね、私が事故で入院したときに、わざわざ遠いところから、お見舞いに来てくれたの」
なんだ、やっぱりそういうことか、って思った。
「それ、あゆみさんが、大切にされてるから、ですよね?」
「うーん、まあ、そうなんだろうけど、さ。普段はそんな素振り見せないから、きっと自分は嫌われてるんだぁ、とか思ってた。もし入院のことがなかったら、今でもそう思いこんでたと思う」
あゆみさんはにっこりと笑って、私を見る。
「だから、さ。本当に心配されてないかどうか、確かめてみよう?」
「……」
時計を見た。9時30分。もう、お父さんもお母さんも、帰ってきてるはず。
心配なんてしてるはずないって、そう思ったけど、でも、もしかしたら心配してるかも、なんて、そんな期待もしてる自分に、気がついた。
「……電話、貸してもらっても、いいですか?」
「もちろんよ」
呼び出し音が1回鳴って、お母さんが出て。
「もしもし、智だけど……」
「智!? 智なのね? どうしたの、こんな時間まで……心配したのよ」
嬉しかった。
心配されてたってことが、分かって。
けど、次の言葉は私の予想を超えていて。
「海人も一緒なの?」
「えっ?」
「海人もまだ、帰ってないんだけど……一緒じゃ、ないのね?」
何が起こっているのか良く分からなかった。