ビバ! 人魚 - プレゼント

【5.おやごころ】

「ねえ、大丈夫!? 起きてよ、ねえ!」

 女の人の声が聞こえて、私は目が覚めた。

 髪の長い女の人の顔と、星空が見える。

「……?」

「あ、起きた! よかったぁ〜」

 その女の人は、ほっとした顔をして、私の顔をのぞき込んでる。

 私はゆっくりと起き上がって、少しして、自分がどこにいるのか、思い出した。

 ……そっか、もう、夜になったんだ。

「ねえ、あなた、名前は?」

「智、です……って、そういうあなたは、誰?」

「私、あゆみ。ねえ、智ちゃん、ちょっとウチ来なよ。すぐ近くだから。体、あっためないといけないわ」

 この人、私がこんなところで寝てるのを見つけて、心配して起こしてくれたみたい。

「ほら、立って、智ちゃん。行くよ!」

「あ、はい」

 立ち上がって、その人(あゆみさん)の後について歩いた。

 悪い人ではなさそうだし、何より体がすごく冷えて寒かったから、早くあったまりたかったから、黙ってついていった。

 あゆみさんの部屋はあったかくて、私は出されたホットミルクを飲みながら、だんだんまた、眠くなってきた。

 けど、

「ねえ、智ちゃん、おうちはどこ? 近くなら、送るよ?」

 と言われて、はっと、目が覚めた。

 そっか、このままここにいたら、家に、帰らなきゃいけなくなるんだよね。

「……」

 私は何も答えないで、ただ、どうしようどうしようって、考えてた。

「あ、やっぱり」

 あゆみさんはうつむいた私の顔をのぞきこんで、言った。

「家出、でしょ?」

 ばれちゃった。

「何があったかは知らない。けど、きっと智ちゃんの家族みんな、心配してるよ?」

 そう言われて、あ、この人はきっと、大切にされてる人なんだ、って、そう思って。

「私、心配なんてされてないから……」

 って、答えたの。

 そうしたら。笑顔だったあゆみさんが、急にまじめな顔をした。

「智ちゃん。私、あなたのことも、あなたの家族のことも、全然知らないけど、ね」

 今度はあゆみさんがうつむく番だった。

「家族って、いくら普段仲が悪くっても、いざってときは心配になるものなのよ」

 あゆみさんは、何だか悲しそうだった。

 私も、あゆみさんも、黙ったまま、しばらくして。

 先に口を開いたのは、あゆみさんだった。

「私もね、親と仲悪くて、だからこんなとこで一人暮らししてるんだけど。でもね、私が事故で入院したときに、わざわざ遠いところから、お見舞いに来てくれたの」

 なんだ、やっぱりそういうことか、って思った。

「それ、あゆみさんが、大切にされてるから、ですよね?」

「うーん、まあ、そうなんだろうけど、さ。普段はそんな素振り見せないから、きっと自分は嫌われてるんだぁ、とか思ってた。もし入院のことがなかったら、今でもそう思いこんでたと思う」

 あゆみさんはにっこりと笑って、私を見る。

「だから、さ。本当に心配されてないかどうか、確かめてみよう?」

「……」

 時計を見た。9時30分。もう、お父さんもお母さんも、帰ってきてるはず。

 心配なんてしてるはずないって、そう思ったけど、でも、もしかしたら心配してるかも、なんて、そんな期待もしてる自分に、気がついた。

「……電話、貸してもらっても、いいですか?」

「もちろんよ」

 呼び出し音が1回鳴って、お母さんが出て。

「もしもし、智だけど……」

「智!? 智なのね? どうしたの、こんな時間まで……心配したのよ」

 嬉しかった。

 心配されてたってことが、分かって。

 けど、次の言葉は私の予想を超えていて。

「海人も一緒なの?」

「えっ?」

「海人もまだ、帰ってないんだけど……一緒じゃ、ないのね?」

 何が起こっているのか良く分からなかった。

(c)Kanata Tohno

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