私の家の近くには川があって、私は、どこか遠くの街に行こうと思ったから、川沿いの土手をずっと歩いていった。
ずっと歩いているのは疲れちゃうから、ときどき座り込んで……少し雪が積もってたから、やっぱりビニールの敷き物を持ってきたのは正解だった。
空は曇っていたけど、雪は降ってなくて。
まだ朝だから、風は冷たかったけど、ときどき土手をはずれて、コンビニに入ってちょっと体をあっためたりしたから、大丈夫。
お昼ごろになって、お腹が空いてきたから、持ってきたパンを食べることにした。座り込んで、手袋を脱いで、パンの袋を開けたら。
にゃお、と、声がした。
川のほうから、小さな灰色の猫が近寄ってきて……私のパンを、欲しがってるみたい。
この子も、捨てられたのかなぁ……。
「ねえ、猫さん、おいで」
ちぎったパンを差し出して、手招きをしてみたけど、猫は近づいてこなかった。
「ほら、パン、あげるよ」
私のほうから近づいてみる。じっとこっちを見てる猫。私は手を伸ばして、そして。
「きゃっ、いたいっ!」
猫は私の手をひっかいた。私は持っていたパンを(ちぎったやつも本体も)落としちゃって、猫はちゃっかり本体のほうをくわえて、素早く逃げていった。
「行っちゃった。……欲しかったら、パン、いくらでもあげたのにな……」
傷をなめて、また座り込む。
私、猫にまで嫌われちゃった。
どこに行っても、きっと、嫌われ者のまんま……。
そう思ったら、泣きそうになって。
でも、泣かなかった。泣きたくなかった。
しかたがないから、晩ごはん用のパンを今食べて、また歩き始めた。
ちらちらと、雪が降り始めてきて。
いつのまにか、大雪になっちゃった。
このまま、雪に埋もれて消えちゃいたい……そんなことを思いながら、でも、足は止めないで、歩き続けたの。
……ずっと歩いて、そして、雪が止んで、夕焼けが見えてきて、もう一歩も歩けない、って思うくらい歩いて来た私は、しばらく休むことにした。
敷き物を敷いて、その上に寝転がって。
ああ、なんだか、急に眠くなってきた……。
寝たら死んじゃうかな、とか思ったけど、たぶんそんなに寒くないし。
だいじょうぶ。
おやすみなさい……。
あったかい夢を見たの。
お父さんがいて、お母さんがいて。
あとは覚えてない。
ただ、夢の中の私は、すごく幸せだった。