ビバ! 人魚 - プレゼント

【4.ゆきのなか】

 私の家の近くには川があって、私は、どこか遠くの街に行こうと思ったから、川沿いの土手をずっと歩いていった。

 ずっと歩いているのは疲れちゃうから、ときどき座り込んで……少し雪が積もってたから、やっぱりビニールの敷き物を持ってきたのは正解だった。

 空は曇っていたけど、雪は降ってなくて。

 まだ朝だから、風は冷たかったけど、ときどき土手をはずれて、コンビニに入ってちょっと体をあっためたりしたから、大丈夫。

 お昼ごろになって、お腹が空いてきたから、持ってきたパンを食べることにした。座り込んで、手袋を脱いで、パンの袋を開けたら。

 にゃお、と、声がした。

 川のほうから、小さな灰色の猫が近寄ってきて……私のパンを、欲しがってるみたい。

 この子も、捨てられたのかなぁ……。

「ねえ、猫さん、おいで」

 ちぎったパンを差し出して、手招きをしてみたけど、猫は近づいてこなかった。

「ほら、パン、あげるよ」

 私のほうから近づいてみる。じっとこっちを見てる猫。私は手を伸ばして、そして。

「きゃっ、いたいっ!」

 猫は私の手をひっかいた。私は持っていたパンを(ちぎったやつも本体も)落としちゃって、猫はちゃっかり本体のほうをくわえて、素早く逃げていった。

「行っちゃった。……欲しかったら、パン、いくらでもあげたのにな……」

 傷をなめて、また座り込む。

 私、猫にまで嫌われちゃった。

 どこに行っても、きっと、嫌われ者のまんま……。

 そう思ったら、泣きそうになって。

 でも、泣かなかった。泣きたくなかった。

 しかたがないから、晩ごはん用のパンを今食べて、また歩き始めた。

 ちらちらと、雪が降り始めてきて。

 いつのまにか、大雪になっちゃった。

 このまま、雪に埋もれて消えちゃいたい……そんなことを思いながら、でも、足は止めないで、歩き続けたの。

 ……ずっと歩いて、そして、雪が止んで、夕焼けが見えてきて、もう一歩も歩けない、って思うくらい歩いて来た私は、しばらく休むことにした。

 敷き物を敷いて、その上に寝転がって。

 ああ、なんだか、急に眠くなってきた……。

 寝たら死んじゃうかな、とか思ったけど、たぶんそんなに寒くないし。

 だいじょうぶ。

 おやすみなさい……。

 あったかい夢を見たの。

 お父さんがいて、お母さんがいて。

 あとは覚えてない。

 ただ、夢の中の私は、すごく幸せだった。

(c)Kanata Tohno

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