次の朝、お父さんとお母さんが仕事に行ってからも、私は部屋から出ようとしなかった。
海人に、会うのがイヤだったから。
お腹が空いてきたら、台所からパンを持ってきて、自分の部屋で食べたし、テレビだって見に行ったりしなかった。
やることもないし、たまっていた冬休みの宿題を、やっつけてた。あんまり気分がのらなかったけど。
そうやって、私がわざわざ海人のことを避けていたのに、海人はなんだか、私に構ってこようとしてきて。
「あの……おひるごはん、たべよう?」
ふすまの向こうでそんなことを言う海人に、
「宿題やってるの、じゃましないで」
って言って追い払った。
それからも何度も、海人は構おうとしてきたけど、私は夕ごはんのときまでずっと、海人とは会わずに過ごした。
お母さんが帰ってきて(お父さんは、今日は遅くなるって言ってた)、夕ごはんは私の好きなイカフライ弁当だったけど、私は「食べない」って言って、お母さんは困ってた。
「じゃあ、食べたくなったら言ってね」
絶対言うもんか、って思ったけど、しばらくして寝ようと思っても、おなかがすいて眠れなかったから。
仕方なく、部屋から出て、リビングに向かったの。
「あら智、やっと食べる気になってくれた? 私も海人も、待ってたのよ」
そう言って、お母さんは三人分のお弁当を温めはじめた。
余計なこと、しなくてもいいのに。お母さんのせいで、私は海人と一緒にごはんを食べることになっちゃって。
海人はちらちらっとこっちの方を見てきたけど、私はわざと目をそらしたりした。お母さんはまた、困った顔をしてた。
その夜。やっぱりなかなか眠れないで、でも布団の中でじっとしていた、リビングから話し声が聞こえた。
「やっぱり、智は海人とは気が合わないみたいだな」
「そうねぇ。いきなり弟ができて、戸惑っているだけだったらいいのだけど……」
「とりあえず、予定通り、一週間様子を見て、それでも馴染めないようなら……」
「そうね、その時は仕方ないわね……」
どきどきした。
そっか、仲悪くしていればいいんだ。そうすれば、海人は出ていくんだ。元にもどるんだ。
もうダメだ、って思ってたけど、ダメじゃないかもしれないんだ。
余計に眠れなくなったけど、でも、私は、明日からどうやって仲の悪さを見せつけようかって、布団の中でずっと考えた。